沢村田之助と言う役者人生おすすめ度
★★★★★
歌舞伎史上、最も異色な存在感を放つ三代目沢村田之助。
彼の壮絶な生涯は、どこからともなく耳にしている方は多かろう。
本書は、あくまでも小説と言うスタンスの物なので、
登場人物との絡みや会話の内容など、どこまでが事実なのか分からないが
ともあれ、本書では田之助と言う人物を、実際見て来た様に
生き生きと書ききっている。
それだけに、その人生の末路がやるせ無くてならない。
自己中心的で、人として一部欠落した面はあったが、
別の面で補って余りある魅力を持っていた為、彼は多くの人に熱狂的に愛された。
順風満帆な人生が許されないなら、片足の切断、それだけで十分な
苦行になるはずだ。
実際多大な葛藤の中、見事に苦難を乗り越える田之助だが、
この華麗な復帰の行を、読者は暗胆たる気持ちで読み進めなければならない。
何故なら現代の私達は、これがその後二度、三度と彼を襲う
悲劇の幕開けに過ぎない事を知っているからだ。
しかし、田之助は信じられない程のタフさで、再びそれらを乗り越えて行く。
.....ように見えた。
どれだけ傷めつけられても、輝きを失わない刀の様に見えた田之助の
心は、実際にはヒビだらけで、ほんの少しのバランスの崩れで
形もなく崩れ去ってしまう状態であったと言う事を、三すじの目線で
伝える筆者の筆の巧みさは見事だった。
本書はそんな希有な役者田之助の生涯と共に、非常に活気に満ちた
当時の歌舞伎事情が実に上手く書かれている。
情熱、愛憎、嫉妬、執念、哀感...全てが詰った美しい小説おすすめ度
★★★★★
生まれながらの才能を持つ美貌の女形役者、田之助と、彼を最期まで観続けた同じ歌舞伎座の女形役者の主人公三すじ。田之助の執念や情熱と対比するように、ヒヤリとした目で事の次第を観続ける三すじに切なささえ感じた。感情を殺している三すじとは反対に、田之助は舞台に対して貪欲で、感情の起伏が激しい。けれど、どこかなにかに対して欠落していたようでいて、胸中の思いをどこにぶつけていいのか困惑し、葛藤している三すじの方が人間臭さを感じる。壮絶な幕末の時代を舞台に生き、衰退していくにもかかわらず、田之助の引き際は最期まで妖艶で悲しく、それを胸に生きる三すじの人生は、これからが始まりなのではないか...
主人公演ずる女形はあまりに妖しく美しいおすすめ度
★★★★★
生まれながらに花を持ち、「演ずる」ために生まれてきた「立女形」。すべてが光のままにあると思われたとき、その身体が徐々に朽ちていく・・・。
美と才に秀で、右足を失いながらも凄絶なまでに芸の道をしがみつく立女形と、その行き様を愛し終生脇役を選ぶ「彼」の想いは、赤江瀑の「夜の藤十郎」(短編集「春喪祭」収録)を彷彿とさせながらもより冷徹な目で描かれています。それにしても主人公の演ずる女形は美しい。
皆川博子氏は「死の泉」で、そのスケールの大きさに驚いたのですが、本書でも主人公の生き様に留まらず、まだ庶民のものであった歌舞伎界の仕組みや幕末から明治に至る時代の流れをも描かれています。
まさに夢のコラボです。
おすすめ度 ★★★★★
言うまでもなく最高峰
。他の方がコメントされているとおり、
感動やドキドキ感を手元に置いて、私同様に何時でも手に取って思い返して頂きたいと願います。